労働市場のルールがしっかりと守られるようにしないと公正な労働市場は機能しない。
また、上記の連合の調査は組合員を対象としたものであるから、組合のない企業ではもっとサービス残業が多いだろう。
サービス残業を減らす大きな手立ては従業員代表制度を導入することである。
従業員が企業のなかで発言できるしくみをつくっていかなければならない。
労働組合だけにまかせておくことはできない。
組合組織率が低下しているだけに、その重要度は増大している。
とはいえ、組合でもだめなのに、従業員代表組織をつくれば大丈夫かといえば、そうはいかないだろう。
さらに、個人が企業外の機関に気楽に通報できるシステム(苦情処理システム)をつくることも必要である。
ここでも労働市場システムの公正さが問われている。
法に反した者が得をすることだけは避けなければならない。
公正な競争が必要なのである。
いくら企業のなかにサービス残業を防止するしくみや機関をつくっても、日常的にきびしい生存競争を繰り広げている企業でサービス残業をなくすことはできない。
実際、厚生労働省の委託研究である連合総合生活開発研究所の『「働き方の多様化と労働時間等の実態」に関する調査研究報告書』(二〇〇二年)によれば、民間正規社員に、所定時間外労働の理由を尋ねたところ、上位四つは次のようになった(複数回答)。
@「そもそも所定労働時間では片付かない仕事量であるから」(六〇・五%)、A「自分の仕事をきちんと仕上げたいから」(四四・三%)、B「仕事の性格上所定内ではできない仕事があるから」(三四・五%)、C「最近の人員削減による人手不足」(二八二一67%)。
第一位は残業の日常化を、第三位は営業時間の二四時間化をうかがわせる。
とくに、不況のために仕事が減ってワークシェアリングが世上に論じられているにもかかわらず、実際には、仕事量以上の人員削減が広範におこなわれており、人員削減による残業増加といういびつな構造を示す第四位は注目に値する。
また、サービス残業については、残業・休日出勤のうち、実際に手当を支給された時間の割合は、「すべて」が四一・一%、ついで「半分にも満たない」が二〇・六%と両極に分かれている。
残業時間との関係でみると、残業時問が短いほど全額支給の割合が高く、残業時間が増えるほど支給割合が減少しており、いわゆるサービス残業が増加している(図表5-サービス残業と正社員ところで、サービス残業を引き起こすもう一つの理由がある。
それは、賃金を労働時間の対価とする意識が個人に弱いことである。
ここには、実は「正社員性」が潜んでいる。
第1章で述べたように、「正社員」雇用関係は、個人・企業双方の包括的な労働力の取引である。
繰り返せば、@期間的にいえば、それは定年までの雇用継続を前提とするものであり、A仕事内容からみれば、そのつど企業が求める要請に個人が応えることが想定されている。
そのかわり、B企業は一定以上の安定した賃金を保証する。
企業は個人の裁量にまかせたうえで、成果を期待するという関係である。
そこには双方の信頼関係がある。
企業は、目に見える個人成果だけで処遇するわけではない。
単なる短期的な雇用契約ではなく、中長期的な雇用契約であり、それは安定した雇用であるメソバーとしての扱いの代償として、個人は好ましくないがやむをえないこととして、受け入れているのである。
この正社員としての包括性と処遇の関係があまりにも一元化されすぎていることに問題がある。
それはすばらしい一面ももつが、豊かな社会にあって、そうした一元的な給付関係をすべての人々が求めているわけではないし、夫婦の役割分業に変化がみられる以上、こうした包括性をもつ人と、そうでない人は分離していかざるをえないであろう。
そのときに、それが極端な形にならないしくみが必要である。
これは実は、労働組合にきびしい課題を課すことになる。
というのは、日本の労働組合は、従業員の同一処遇を求めてきた集団だからである。
ところで、管理職クラスにはサービス残業はない。
労働基準法上、管理監督者として処遇され労働時間管理から外れるからである。
日本企業はこれまで、管理職ではない管理職クラスをたくさんつくり出してきた。
ホワイトカラーの多い企業ではとくに、それは労働組合の隠れた要求でもあった。
建前はともかく、昇進して組合員ではなくなることを組合は求めて両きたのである。
それは組合員である正社員たちの強い欲求でもあった。
企業も、それをモラール維持のために人事管理上、是としてきたのである。
管理職クラスでない人たちも裁量労働にすれば、サービス労働問題は法的にはなくなる。
しかし、これも労働時間規制を外れるということであって、現象そのものの本質的な解決ではない。
では、労働時間で規制できない仕事についてはどのように規制するのか。
やはり職場での規制しかない。
労働組合がしっかりしていないとか、しっかりせよとかいう精神論も意味がまったくないとはいえないが、制度上、それができるシステムづくりがかかせない。
一つは職場での管理であるから、職場で働く人たちが労働時間上の不満をくみ上げるシステムが必要不可欠である。
それは職場代表や従業員代表のシステムをつくることである。
これは企業内労働市場を透明化・公正化するためにも、従業員のモラールアップを図るためにも必要である。
もう一つは企業外のシステムを構築することである。
公正な労働市場をつくるには、公正なルールが運用される必要がある。
ルールの守られない市場は暴力的である。
そのためには、企業内の苦情を社会的に処理するシステムも必要である。
この二つのシステムづくりができ、しっかりと運用されるとき、成果主義や能力主義は真にその成果を発揮するであろう。
『労働力調査』は『国勢調査』と同じ定義にしたがっている。
本当は「被雇用者」であるが,統計ではそういう名称が用いられているので以下ではそれにしたがう。
この調査は,労働基準監督官による調査である。
『雇用管理調査』は職能資格制度を「資格制度」と呼び,次のように定義している。「職務遂行能力や知識・技能,経験などをもとにしていくつかの資格等級を設定し,そのいずれかの資格に社員を格付けして,昇進や賃金決定などの基準とする制度をいう」。
おくれ集団のさらに後方に,例外者がいることがある。何らかの理由から意図的に企業に反発する人や労働意欲をまったく失った人である。前者の場合,良心や個人的な憤りなどが主たる理由であろう。もし,企業が不法行為をするのであれば,それを公の場に出す必要がある。こうした制度が日本ではあまりにも貧困である。そうした人の身分保障も必要である。本書のテーマではないが,内部告発が不利とならないしくみづくりという大きく困難な問題である。他面,企業にとっては,一定の条件のもとで雇用関係を解消できるシステムも必要である。企業に貢献せず,義務を果たさずに権利だけを主張する人を一切解雇できないというのも変である。

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